論説 2009.8.10 五十嵐 仁(法政大学大原社会問題研究所)
都議選が示した総選挙の予兆
7月12日に投開票された東京都議選の結果は、民主党54議席、自民党38議席、公明党23議席、共産党8議席、ネット2議席、社民党0、諸派0、無所属2議席というものでした。ここで示された傾向は、恐らく総選挙にも引き継がれることでしょう。その意味で、都議選の結果は来るべき総選挙を予兆するものだと言って良いように思われます。
その第1は、投票率の上昇です。投票率は54.49%で、前回より10.5ポイント増えました。前回よりも1割以上増え、8年ぶりに5割りの大台を回復しました。この投票率の上昇は、今回の都議選への都民の関心の高さを示しています。これから類推すれば、次の総選挙の投票率もかなり上昇するにちがいありません。
第2は、民主党の圧勝です。民主党は19議席を増やして都議会第1党になりました。全42選挙区のうち39選挙区でトップ当選(推薦1を含む)し、1人区では6勝1敗になりました。58人の候補者のうち落選者はたったの4人にすぎません。公示3日前に3人追加公認しましたが、そのうち、千代田区では26歳の候補者が自民党の都議会幹事長を破りました。葛飾区で当選した新人女性候補は、当選祝いのだるまも花も用意されていなかったといいます。民主党に「追い風」が吹いていたことは明らかです。
第3は、自民党の敗北です。10議席も減らし、自公両党の議席を併せても過半数を上回ることができませんでした。ただし、自民党は票を減らしたわけではなく、11万8000票増やしています。正確に言えば、自民党が負けたのではなく、民主党が勝ったのだということになります。
第4は、公明党の得票減です。公明党は前回当選者と同数の23人が立候補し、全員当選させました。ここで注目されるのは、4万3000票減らしていたにもかかわらず、議席を減らさなかったことです。当選第1に候補者を絞り、「選択と集中」によって議席を死守した公明党の選挙戦術の巧みさの結果でしょうか。
第5は、共産党の得票増と議席減です。公明党とは逆に、共産党は得票を2万8000票増やしたにもかかわらず、5議席減らしました。共産党は支持を減らしたのではなく、当選に必要なだけ増やすことができなかったということになります。投票率が高まって当選ライン(水面)が上昇したために「棒杭」が水没してしまったというわけです。
ここで、興味ある事実を一つ、指摘しておきましょう。それは、幸福実現党が候補者を立てたことの影響です。先の都議選で、幸福実現党は10選挙区で候補者を擁立し、足立区ではそのために共産党と自民党の当選者が入れ替わりました。
次点になった自民党現職候補の得票は3万2895票で、最下位で当選した共産党新人候補は3万4130票と、わずかに1235票の差でした。幸福実現党の候補が2115票を獲得したために、自民党候補が落選したと思われます。もし、これまで通り幸福の科学が自民党を応援していたら、最下位当選者と次点は入れ替わっていたかもしれません。
このように、都議選の結果は「政治を変えて欲しい」という願いがほとんど民主党に向けられたために生じたものと思われます。そこには、新銀行東京や築地市場の移転問題、福祉の破壊など、石原都政に対する批判が込められていたでしょう。同時に、国政に対する強烈な変革願望も小さくない意味を持っていたように思われます。
その背景には、長年の自民党政治に対する不満と不安の累積があるように思われます。中曽根「臨調・行革」以来の新自由主義的な弱者切り捨て、小泉元首相が押し進めた構造改革路線、麻生首相への不信などに加えて、自民党支配そのものへの批判が底流に流れていたと言えるでしょう。「もう、日本のかじ取りを任せておくわけにはいかない」と、これまでの自民党支持者ですら、そう思い始めているのではないでしょうか。
「リーマン・ショック」によって、金融資本主義や新自由主義の破綻は明瞭になりました。「年越し派遣村」によって、小泉構造改革路線の誤りは誰の目にもハッキリと分かるようになりました。3代にわたる首相は失政を繰り返し、ブレ続ける麻生首相は国民の支持を回復できず、政治破綻の繕いに失敗しました。小泉首相がぶっ壊した自民党政治の基盤を修復することができなかったのです。
都議選は、このようにして累積した不満と不安への審判の機会として都民によって利用されました。多くの国民もまた、来るべき本格的な審判の機会を、首を長くして待ち望んでいるにちがいありません。都議選を上回るような、自民党政治に対する断罪の機会とするために……。
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