論説 2009.9.30 小沢隆一(東京慈恵会医科大学教授)
激動する政治と9条をめぐる情勢
−総選挙・鳩山政権を受けて−
8月30日の総選挙は、民主党の圧勝(115→308議席)、自民党激減(300→119議席)、公明党後退(31→21議席)、共産党・社会民主党・国民新党の議席横ばいという結果となった。これにより、自公政権は崩壊し、9月16日、民主・社民・国民新党による三党連立の鳩山由紀夫内閣が成立した。この間の政治の激動をふまえて、憲法9条を守り活かす運動をどう進めるべきか、検討してみたい。
まず、衆議院での勢力配置のこうした変化(共・社・国にとっては不変化)をもたらした直接の要因が、小選挙区(定数300)・比例代表(定数180、11ブロック)並立制であり、しかも小選挙区候補が惜敗率に応じて比例選挙でいわゆる「復活当選」できる制度であることを確認する必要がある。自民と民主の議席数が、05年の総選挙と今回の選挙でほぼ入れ替わったのは、小選挙区選挙での得票とそれに連動した比例選挙での得票の変化(端的には自民・民主間での票の移動)によるところが主要因と見られる。公明の後退も、自民の支援をあてにした小選挙区で軒並み民主に敗北したことが大きい。
現在の衆議院の選挙制度は、大政党にとっては、まず小選挙区選挙で、首位を占めれば、得票率が必ずしも圧倒的でなくても、それゆえにわずかな票の移動でも議席を大量に獲得でき、かくして小選挙区で優位を占めた政党は、さらに比例代表でも、「復活当選」を保険とみなす有権者の支持を期待できるという、いわば「大政党による二重取り」の制度であることが、今回の選挙で歴然とした。比例代表が、小選挙区制の弊害を是正して少数政党への支持を汲み上げるものとしては機能していないのである。
このような不公正で非民主的な制度は、早急に改革しなければならない。民主党が主張するような比例代表定数の削減(180→100)などは言語道断である。
また、今回の選挙結果と新政権の発足は、憲法との関わりでは、新しいいくつかの特徴を持っている。第一は、この間の改憲運動の中核部隊であった「新憲法制定議員同盟」のメンバーの激減である。会長の中山太郎、幹事長の愛知和男をはじめ、山崎拓、中川昭一、島村宜伸らがそろって落選した(衆議院総勢では139人中86人が落選)。第二は、与党のマニフェストや選挙公約、政策合意のなかに、憲法の理念を実現するものとそれを堀崩すものとが、それこそ「玉石混淆」のごとく混ざっていることである。それらのなかには、各党が以前から掲げてきたもの、07年の参院選や今回の総選挙で急きょ登場してきたもの、財政的裏付けのあるものないもの、その必要があるものないものなどなど、多様なものが雑多に含まれている。
そうしたなかで、自公政権がこの間進めてきた反憲法的、新自由主義的な政策を転換して憲法の価値を実現しようとする政策は、しっかり(公約通り)実施するよう、またおかしな方向にねじ曲げないよう、圧力をかけ、監視していくことが大切である。科学者九条の会のようなさまざまな研究分野の方が結集している会が、新政権の憲法政策を精査し、監視し、批判して、憲法を実現する方向に向かわせていくことが、いま重要ではないだろうか。
9条の問題については、鳩山首相と小沢一郎民主党幹事長の「地金」は、改憲派であることに、注意を怠ってはならない。鳩山は、『新憲法試案』という本を05年に出版し(PHP出版)、自衛軍の創設、集団的自衛権の容認を唱えている。小沢は、国連中心の平和活動への参加は、武力行使を含んでも憲法に抵触しない、アフガンのISAFに参加したいと、雑誌『世界』(07.11)に寄稿した経緯がある。彼らに対する、アメリカや財界からの圧力は生やさしいものではないだろう。当面は、来年1月に期限が切れる補給支援法にかわる対米支援の方策が問われる。アフガンへの地上部隊の派兵、自衛隊派兵恒久法には、民主党はもともと親和的な政策を掲げてきた。いつ「素顔」を現して、提起してくるか予断を許さない。武器輸出3原則見直し問題や核兵器持ち込み密約問題も目が離せない。
民主党は、もともと自民党と違い固有の圧力団体の少ない政党である。それが衆議院で巨大な多数派を占めているのであるから、憲法9条に関わる政策で「豹変」する可能性は、いつでもあると見るべきだろう。その点で、九条の会の運動の意義と役割は、ますます重要になってきていることを強調したい。
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