声明
2019.10.25 事務局長声明


あいちトリエンナーレの中断および文化庁の補助金撤回について


 あいちトリエンナーレの展示「表現の不自由展」について、それに反対する声におされ、いったんは展示が中断されたこと、ならびに、展示が再開されたににもかかわらず、文化庁がいったんはきめた補助金の支出を撤回したことについては、以下の憲法上の問題がある。

 1、今回の展示内容は、植民地支配・侵略戦争のなかで日本がおかした犯罪を批判する表現がふくまれていた。しかし、日本が従軍慰安婦や強制連行など非人道的かつ国際法違反の行為をおかしたことは歴史的事実である。そのような的事実を真摯にうけとめることこそ、植民地支配や侵略戦争に対する反省に立脚した日本国憲法がもとめるものであろう。

 2、文化庁はいったん支出をきめた補助金を、採択の審査をした有識者会議の再検討や、あいちトリエンナーレ当事者の弁明など手続を経ず、また撤回の根拠規定もないまま、一方的に撤回した。これは、行政機関に求めらる適正手続主義にのっとったものとはいいがたい。このように恣意的な手法による補助金撤回が慣例化すれば、さまざまな文化活動は閉塞させられるであろう。

 3、再開された「表現の不自由展」会場において、再開に反対する名古屋市長が座り込みで抗議をし、展示を妨害しようとした。このことは、憲法上の人権(展示をする自由、展示を見る権利)を害するという点で、行政機関の長としてあるまじき行為である。また公務員の憲法尊重擁護義務にも反する行為として批判される。

以上

2019年10月25日
「九条の会」のアピールを広げる科学者・研究者の会(九条科学者の会)
事務局長 永山茂樹



2019. 5. 6. 事務局長声明


憲法審査会の強行開催と拙速な審議に反対する


 自民党は、昨年から開催されていない衆議院の憲法審査会の開催を強要した。そして一部野党幹事の「合意」をとりつけ、4月25日に開催させるにいたった。さらにそこでは5月9日の憲法審査会において、民法連の関係者を参考人として招致することを決定した。一部報道によれば、5月9日の審査会で、憲法改正国民投票法の改正案を「審議」し、一気に採決まで狙っているという。

 しかし憲法審査会のこのような動かし方は、以下の点において、とうてい容認できるものではない。

 第一に、昨年末以来、国民と野党のつよい反対によって、両院の憲法審査会は開催されておらず、また開催を必要とさせる状況の変化はまったくない。にもかかわらず自民党は野党にたいして圧力をかけ、野党筆頭幹事との非公式懇談において4月25日の幹事会開催を押しつけ、さらに25日の幹事会において26日の審査会開催を押しつけたという経緯である。これは数の力による政治以外のなにものでもない。

 このことは、憲法審査会の開催には与野党の合意を必要とする、という慣行をくつがえすものでもある。まして憲法改正発議では特別多数が条件とされることからもあきらかなように(憲法96条1項)、とくに憲法改正においては、数を頼みにした「ワイルドな」国会運営(萩生田光一・自民党幹事長代行)はあってはならないことである。

 第二に、憲法改正国民投票法におけるCM規制をめぐっては、「現行法では、資金力の差によってCMの量がきまり、公平性が保たれない」とする野党と、「民放連の自主的な規制にゆだねるべきだ」とする自民党のあいだで意見はまっこうから対立している。しかも民放連は、自主規制に反対の立場をとっている。このまままともな審議もなく強行採決をすれば、必然的に、憲法改正国民投票運動において、豊富な資金力のある改憲派のメッセージだけがテレビで流れるであろう。このような致命的欠陥をもった憲法改正国民投票法の審議を、わずか1日で打ち切ろうということには、一毛の正当性もない。

 第三に、憲法審査会の強引な開催は、憲法9条の平和主義を否定する安倍改憲の早期実現を狙ったものだという点である。自民党は今年2月、「日本国憲法改正の考え方〜「条文イメージ(たたき台素案)」なる文書を全国の所属議員に送りつけ、改憲論議をすすめることを求めている。しかしその内容は、安倍9条改憲のねらいが、自衛隊を「アメリカの指揮下で戦争のできる国」づくりに動員させるためのものであることを隠蔽し、「国民に信頼されている等身大の自衛隊をそのまま憲法に位置付けようとするもの」などと言いつくろうなど、偽りに満ちたものといわざるをえない。

 いま東アジアは、武力によらない平和を実現する絶好の機会である。わたしたち日本国憲法9条の平和主義を愛する科学者・研究者は、憲法9条と立憲主義をないがしろにする憲法審査会の強行開催と、憲法改正国民投票法の拙速な審議につよく反対する。

2019年5月6日
「九条の会」のアピールを広げる科学者・研究者の会(九条科学者の会)事務局長
東海大学教授
永山茂樹


2018. 2. 20 事務局長声明

安倍・自民党の改憲の本質的危険性と科学者・研究者の責務

 安倍・自民党は、改憲をめざし、党内外での調整を急速にすすめている。
 昨年12月20日には自民党憲法改正推進本部が「憲法改正に関する論点とりまとめ」を発表した。これによって、@9条改憲・自衛隊の明記、A緊急事態条項の創設、B参議院の合区解消、C教育充実の4テーマに絞って、改憲を進めていくという方向が確定した。  
 2012年に自民党が発表した「憲法改正草案」と比べて、改憲条項の対象や内容は限定されている。また随所に散りばめられていた復古調の文言も削られた。  
 自民党内の議論はなおまとまっていないが、目下、@’9条2項を存置させつつ自衛隊の存在を明記すること、A’緊急時における内閣の緊急政令権や、内閣総理大臣の財政処理権・自治体の長に対する指示権などを外すこと、などが有力とされている。  
 そうして他党や国民の同意を得つつ、早ければ2018年中の国会発議、2019年早い時点での国民投票という青写真が描かれている。

 しかし、かりに「憲法改正草案」からのスリム化・ソフト化があったとしても、安倍・自民党の改憲の本質的危険性は、まったく払しょくされていない。  
 第一にその改憲は、安保法によって「普通の国」の軍隊に近づいた自衛隊を、憲法的に正当化することにほかならないからである。すなわち憲法に書き込まれる自衛隊とは、災害救助のための組織でもなければ、専守防衛のための組織でもなく、また2015年以前の自衛隊でもない。集団的自衛権を行使し、平常から米艦を護衛し、PKOや多国籍軍へ参加して戦闘行動を繰り広げることができる組織である。  
 第二にその改憲は、自衛隊に対して、これまでなかった「公共性」をあたえることになるからである。そうすると、公共性のあることを理由に、国家・社会のさまざまな領域で、軍事が優先されることになるだろう。そこでは、たとえば国民の権利(知る権利、思想良心の自由、学問の自由、財産権など)が犠牲にされ、また国家財政のあり方においては「バターよりも大砲」の論理が貫かれ、社会保障の切り捨てに拍車がかかるだろう。  
 第三にその改憲は、A緊急事態条項の創設による選挙権の停止(しかもその停止は無期限に及ぶ危険がある)、B「教育充実」の名の下で強化しようとする国家の教育統制、C参議院選挙の「小選挙区化」による多数派の過剰代表状況の固定化など、いずれも、9条改憲とあいまって「戦争をする国」「強権的な国」づくりにつながるからである。  
 第四に、権力者が国家権力を濫用して権力者のための改憲を狙っているからである。すなわち、安倍・自民党の改憲内容とその進め方は、歴史的経験に裏打ちされた人類の英知である立憲主義思想を軽視している。この改憲が危険でないことの理由として首相が示すのは、「この改憲によっても集団的自衛権の行使は限定的なものにとどまる」という首相自身の憲法解釈である。しかしそのような解釈がたやすく覆されてしまうことを、わたしたちは14年7月の閣議決定のときに目撃した。  
 第五に、憲法改正国民投票には問題が多く、ひとびとの憲法意識を正しく表明する仕組みにはほど遠いものだからである。たとえば、投票に最低投票率が定められておらず投票が少なくても改憲が成立してしまうおそれ、公務員や教員の自由が制限されるおそれ、そのことによって国民の知る権利が制限されるおそれ、テレビスポットの制限がないためお金をもった者の意見のみが氾濫するおそれ、などである。

 このような憲法状況のなかで、わたしたち科学者は、いくつかの責務を負っている。  
 第一に、安倍・自民党改憲が、現行憲法の求める「国民主権・平和主義・基本的人権の尊重」からどのように乖離しているかを、科学者の目をもって認識し、それをひとびとに積極的に伝える責務である。  
 第二に、現行憲法の求める「国民主権・平和主義・基本的人権の尊重」を、この社会のなかでどのように実現させていったらよいかということを、不断に検討するという責務である。  
 第三に、国家・社会の軍事化につながる研究を行わず、平和につながる研究を行う責務である。またそのような研究体制を守る責務である。  
 第四に、最後に、教育組織・研究組織のなかで接する、未来ある若者たちが、戦場にいかなくてよい社会を守る責務である。

2018年2月20日
「九条の会」のアピールを広げる科学者・研究者の会(九条科学者の会)事務局長
東海大学教授
永山茂樹


2015.10.13 事務局長声明

安全保障関連法の廃止に向け今こそ科学者の共同のたたかいを!

安全保障関連法(以下、安保法)の国会での「可決成立」を受けて、政府はただちに来春以降の南スーダンPKOの武器使用の強化、離島奪還を想定した日米合同軍事演習など、海外での自衛隊の活動を活発化させています。この法制が、アメリカの力の論理に日本をより強く結びつけ、その無謀な軍事戦略に組み込むうえで一線を踏み越えたものであることは明らかです。

しかし、この間の安保法に反対する運動をつうじて、憲法や安全保障をめぐる国民の政治意識の地形図は大きな変貌をとげました。多くの国民がこの戦争法の違憲性のみならず、日本のアメリカへの度し難い従属ぶりや、この法律と日米軍需産業との結びつき、沖縄基地問題や原発再稼働とのつながりを見抜くようになりました。連日、国会周辺に多くの人々が集まり抗議の声をあげ、若者たちも明確な意思を示し、めざましい役割をはたしました。学者、研究者は、「安全保障関連法に反対する学者の会」を立ち上げ、短期間で1万4000人を超える声を集め、さらに無数の集会や記者会見をつうじて多くの研究者が専門の見地からこの法律の違憲性を訴えたことも運動の展開に大きく貢献しました。世論調査の結果をみても国民の安保法に対する反対は強く、政府は孤立していますが、安倍政権は、国会を取り巻くこうした声に耳を閉ざしています。

国会の多数で安保法は「成立」しましたが、私たちの運動が終わるわけではありません。むしろ、今後ますます広く深く根をはり、今後の日本の民主主義のあり方を変えるたたかいとして続きますし、続けねばなりません。この安保法の具体的な運用は、これからの国民世論の動向に左右されます。さらに国民の結束した運動如何では、次期参議院選挙までに大きな共同のうねりを作り出し、この法律を廃止に追い込む可能性も十分にあります。

私たち九条科学者の会は、安全保障に関する様々な立場の違いを超えて、憲法九条を守るという一点で共同して運動を続けてきました。また、明文改憲だけでなく、解釈改憲による憲法九条の実質的な毀損・破壊に対しても厳しく批判してきました。安保法の「成立」をうけ、私たちの運動はますます重要となりつつあります。各大学や研究機関の多くの人々に引き続きこの法制の違憲性、危険性についての理解をさらに拡げ、「力によらない」世界と日本の平和の可能性を訴えつつ、共同の輪を拡げていこうではありませんか。

2015年10月13日
「九条の会」のアピールを広げる科学者・研究者の会(九条科学者の会)
事務局長 本田浩邦


2013.11.16 事務局長談話

9条改悪を先取りし、日本を戦争する国に変える「国家安全保障会議設置法案」および「特定秘密保護法案」に強く反対する

安倍政権は、衆議院に設置された「国家安全保障特別委員会」において、「国家安全保障会議設置法案」(以下「NSC法案」)および「特定秘密保護法案」(以下「秘密保護法案」)の審議を開始し、今臨時国会中の両法案の可決を目指している。

「NSC法案」は、自民党が2012年7月に公表した「国家安全保障基本法案(概要)」にもとづき、集団的自衛権の行使を前提にした米国との緊密な軍事的連携を図る組織と位置付けられている。また、「秘密保護法案」は、特定秘密の「漏えいの防止を図り、もって我が国及び国民の安全の確保に資すること」を目的とし(第1条)、「防衛、外交、特定有害活動(スパイ等)防止、テロ活動防止」の4分野において行政機関の長が「特定秘密」を指定し、それを漏えいした公務員等ならびに「特定秘密」への「不正アクセス行為」等をした者を最高10年の懲役に処すとしている。また「特定秘密」取扱者を「適性評価」の調査対象とするものである。これら両法案は、10月3日に東京で開催された「日米安全保障協議委員会」(2プラス2)の合意共同文書では、日本側が集団的自衛権の行使検討を表明し、米国は「情報保全の法的枠組みの構築」を歓迎するとしていることからも、こうした「日米合意」の一環であることは明らかである。すなわち、日本国民の目と耳、口をふさいで日米軍事同盟を強化し、米国の戦争への日本の協力に役立てるのが両法案の真の目的にほかならない。

戦前の軍機保護法は、軍事機密を保護するため、陸軍大臣及び海軍大臣が機密指定した事項全ての探知、収集、漏洩に厳罰で臨み、軍人以外に民間人をも対象とし、言論統制に使用された歴史がある。一般に報道されていた飛行場の位置を外国人に話したとして逮捕された「宮澤弘幸・レーン夫妻冤罪事件」にみられるように、市民の自由は大きく制約された。また「満州事変」を引き起こした柳条湖事件やベトナム戦争拡大の契機となったトンキン湾事件など、重大に事実が長期にわたって秘密にされたことが、政治の歴史的判断を大きく誤らせた。この特定秘密保護法案は、まさにそれらの轍を踏むものといわねばならない。

日本国憲法は、前文において「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言」し、第9条においては「戦争放棄」を定めている。安倍首相は「国際協調主義に基づく『積極的平和主義』」を唱えているが、その内容が、実際には「米国との協調に基づく好戦的・軍事的紛争解決」の危険を内包していることは明らかである。すなわち、両法案の成立は、日本国憲法、とりわけその9条の改悪を先取りするもの以外のなにものでもない。したがって、我々は、両法案に強く反対する。

国民の中には、日本の周辺国との関係が緊張の度を増していることから、両法案の成立に「賛成」ないしは「やむを得ない」と考えている人も少なくないことが世論調査の結果に見られる。しかし、日米軍事同盟をいっそう強化し、軍事機密を国民に秘匿し、日本が米国と居並ぶ「軍事大国」となることは、かえって北東アジアにおける緊張を激化させ、戦争の危険を高めるものである。

領土や国境紛争等の問題は、外交その他の平和的手段によって解決する等、真の国家間の「安全保障」を構築することこそが必要であり、またそれは可能である。その好例がASEAN(東南アジア諸国連合)を中心とする東南アジア諸国の動向にみられる。現在、アジアでは、ASEANを中心に「東南アジア友好協力条約」(TAC)、「ASEAN地域フォーラム」(ARF)、「東南アジア非核兵器地帯条約」、「南シナ海行動宣言」(DOC)、「東アジア首脳会議」(EAS)など重層的な平和の枠組みができており、その精神は共通して「意見の相違または紛争の平和的手段による解決」(TAC第2条)に徹することにある。こうした対話の場を通じて、現在、最大の当事国である中国を含めて、南シナ海の領有権問題などの具体的な解決がはかられようとしている。こうした平和的な会議や条約等を北東アジアにおいて推し進めることこそ、本来あるべき「積極的平和主義」の主要な課題ではないか。

2013年11月6日
「九条の会」のアピールを広げる科学者・研究者の会(九条科学者の会)
事務局長 本田浩邦


2012.12.03 事務局長談話

改憲が重要争点となる衆議院議員総選挙にあたって

先月16日の野田首相による突然の衆院解散表明によって、衆議院議員選挙が12月4日公示、16日投開票の日程で行われることになりました。現在、事実上の 選挙戦となるなかで、多くの党が争って改憲を主張するという異常な事態となっており、今回の総選挙は、原発存続の問題とあわせて、「国の基本ルール」であ る憲法の改悪を許すか否かが重大な争点となりつつあります。

自民党は、政権公約として、九条改憲、集団的自衛権の行使、「国防軍」の創設を掲げ、軍事機密の保持や軍事裁判所の設置をも主張しています。「日本維新の 会」は、公約である「維新八策」に憲法改正要件の緩和と九条存廃の国民投票を盛り込み、最近では、集団的自衛権行使と自衛隊の海外派遣時の武器使用基準の 見直しを掲げています。代表である石原慎太郎氏は、日本核武装のシミュレーションの必要を公然と主張しました。また、この間、「武器輸出三原則」を投げす て、集団的自衛権行使の検討を進めてきた民主党は、今回のマニフェストで改めて日米同盟の深化を掲げています。

海外メディアは、こうした動きを日本の急速な右傾化、右翼勢力の台頭として懸念を表明していますが、あろうことか日本の大手メディアは概して憲法問題を軽 視し、民主党が政権を維持するか、自民党が奪還するか、あるいは、いわゆる「第三極」がどの程度議席を得るかといったことがあたかも選挙の重要争点である かのように煽る報道を繰り返しています。

『朝日新聞』は世論調査(11月24・25日実施)で、「第三極の政党同士が連携するとき、政策の一致はどの程度重要だと思いますか」「日本維新の会と太 陽の党が合併したことは、よかったと思いますか。そうは思いませんか」などと、あたかも改憲勢力の組み合わせが政治的閉塞打開のカギであるかのように扱っ ています。また、『毎日新聞』も同社の世論調査(11月17・18日実施)で野田佳彦首相と自民党の安倍晋三総裁に関し、「どちらが次の首相にふさわしい か」と訊ね、「日本維新の橋下徹大阪市長と石原慎太郎前東京都知事が衆院選で連携すべきかどうか」と問うなど、政策内容を度外視した争点を作り上げるとい う有様です。さらに『読売新聞』の世論調査(11月30日−12月2日実施)は、「日本維新の会など第三極の政党が、国会で影響力を持つ議席数を取ってほ しいと思いますか、そうは思いませんか」などと設問し、政策争点をたずねる質問では「憲法改正」を「その他」を除く選択肢の最後の9番目に置くという手の 込みようです。
しかし、皮肉なことにその世論調査(『朝日新聞』11月26日、12月3日報道)で、調査時点で「比例区の投票先」の最多の回答が「答えない・分からない」(共に41%)であったという結果にみられるように、国民の多くは、そうした作られた争点に懐疑的です。

こうした改憲勢力の動きとメディアによる世論操作が投票行動を左右すれば、その結果は、衆議院の圧倒的多数を極端な改憲派が占めるという異常事態に陥りかねません。憲法を変えるか否か、日本が戦争国家になることを許すかどうかがこの選挙にかかっています。

なお、朝日新聞のその後の世論調査(12月3日報道)では、投票に際して「憲法9条に対する政党や候補者の姿勢をどの程度重視して決めますか」との設問 に、25%が「大いに重視する」、43%が「ある程度重視する」と答え、「あまり重視しない」21%、「全く重視しない」6%を大きく上回っていること、 また、「憲法9条を改正して、自衛隊を国防軍にすることに賛成ですか。反対ですか」との問いには、賛成26%、反対51%と、反対が賛成を大きく上回って いる結果が示されています。この点は、9条改憲問題が重要な争点であり、自衛隊を「国防軍」化することには反対であるという意見を持つ国民が多数であるこ とを示唆しているものとして注目されます。

わたしたち「九条科学者の会」は、さまざまな思想・信条、さまざまな政党支持者で構成されており、したがって、特定の政党の支持活動をするものではありま せん。しかし、そのことは今回のような憲法の根幹に関わる重要な政治選択の問題を無視するということを意味しません。わたしたちは、この度の総選挙にあ たって、憲法九条を擁護する立場から、各大学・研究機関の九条の会に参加されるみなさんに積極的に今回の選挙に参加することを訴えるとともに、すべての有 権者に九条をはじめとする日本国憲法の諸原則を守る意志を投票を通じて表明されることをよびかけます。

2012年12月3日
「九条の会」のアピールを広げる科学者・研究者の会(九条科学者の会)
事務局長 本田浩邦


2012.03.04 7周年記念のつどい 集会アピール

改憲と憲法体制の空洞化を許さず、アジアに集団安全保障の実現を!

大震災・原子力災害から1年、民主党・野田政権は、復旧・復興への遅々とした取り組みとはうらはらに、改憲準備と憲法体制の空洞化を着実に推し進めてきました。一連の動きは、自公政権もなしえなかったという意味で、憲法体制の危機を新たな段階に押し上げた感があります。

昨年11月、2007年の設置以降動きがなかった衆院憲法審査会が初めて開催され、昨年1月には、政府として各府省の事務次官に憲法改定のための国民投 票法の18歳以上の投票の実施に関連する民法や公職選挙法などの法律改定の検討を指示しました。さらに、2010年4月以降中断している、国民投票実施の ための事務次官会合を再開するなど、改憲への準備を着々と進めています。また、自民党は3月2日に「集団的自衛権」を認めるなどの改憲原案を作成し、大阪 維新の会は九条の改定を国民投票にかけるなどの政策を打ち出しています。

重大な事態は明文改憲だけではありません。政府は、昨年末、ついに「武器輸出三原則」の見直しを決め、日米で共同開発したミサイルや戦闘機の第三国への 輸出を可能にする道を開きました。これは、アメリカと日本の軍需産業が多年にわたって要求し続けてきたものであり、日本は平和国家としての原則からさらに 大きく逸脱することになりました。またこれと連動して、政府は、独立行政法人「宇宙航空研究開発機構」(JAXA)の設置法を改定し、同機構による宇宙開 発の平和目的規定を削除する法案を通常国会に提出しました。「武器輸出三原則」の緩和とJAXA法の改定は、日本の科学技術をアメリカ主導のミサイル防衛 (MD)、偵察衛星、早期警戒衛星の開発などの軍事目的への利用と武器輸出に直結させようとするものであり、科学にたずさわるものとして決して見過ごすこ とはできない問題です。

米軍再編についても、この間大きな変化がありました。先月8日に日米両政府は、「在日米軍再編見直しに関する基本方針」を発表し、6月にも予定されてい た普天間飛行場の県内移設を先送りするとしましたが、沖縄の基地負担軽減の道は不透明なまま、普天間基地の「固定化」が懸念されています。

こうした憲法をめぐる民主党政権の一連の政策は、日本に対する諸外国の懸念を生み、アジア諸国間の協力による集団的な安全保障への前進を妨げるもので す。真の国際の安全は、軍事によらず外交と経済協力をつうじた共同の繁栄を土台として成り立つものであり、領土問題など紛争事項は国際的な枠組みで解決す る以外にありえません。

私たちは、憲法の平和的諸原則を擁護する立場から、民主党政権が推し進めるアメリカと日本の財界の意向に沿った軍事優先の政策の根本的な転換を訴えるとともに、改憲および憲法体制の空洞化への動きに強い反対の意志を表明するものです。

2012年3月4日
九条科学者の会7周年記念のつどい
参加者一同


2012.2.9 事務局長談話

宇宙開発の軍事利用を促進するJAXA法改悪に反対する

政府は、独立行政法人「宇宙航空研究開発機構」(JAXA)の設置法(JAXA法)を改悪し、同機構による宇宙開発の平和目的規定を削除する法案を通常国会 に提出しようとしています。私たちは、憲法の平和原則の立場から、この改悪による日本の宇宙開発の軍事利用強化に強く反対するものです。

日本の宇宙開発は、1969年、衆院において全会一致で採択された「わが国における宇宙の開発および利用の基本に関する決議」以来、非軍事目的に限定さ れ、現JAXA法でも、宇宙開発・研究、人工衛星の開発・打ち上げといった同機構の業務はいずれも「平和目的に限る」とされてきました。ところが2008 年制定の宇宙基本法は、こうした日本の宇宙開発の理念を放棄し、軍事利用への道を開いたのでした。今回の改悪案はその宇宙基本法に合わせ、JAXA法に 「わが国の安全保障に資するよう行われなければならない」との規定を新たに盛り込む方針と報道されています。

こうした法改悪が実現すれば、JAXAの研究が、ミサイル防衛(MD)、偵察衛星、早期警戒衛星などといった軍事目的に応用され、さらには、現在、政府が 推し進めている「武器輸出三原則」の見直しとあわせて、アメリカとの軍備の共同開発、第三国への武器輸出に結びつけられる可能性がでてくることは明らかで す。実際、三菱重工業会長など「有識者」で作られた「宇宙開発戦略専門調査会」が1月13日に発表した報告書では、「財政制約の下で、これまでのように官 需のみに依存して宇宙産業基盤を維持することは不可能である。他方、海外においては、先進国に加えて新興国において宇宙産業の市場が拡大しつつある」とし て、この分野への輸出により規模の拡大を推し進めようとする姿勢が示されています。

宇宙開発の軍事への従属は、その目的と機密性によって研究内容をゆがめ、平和憲法をもつ国民の要求とかけ離れたものにするおそれがあります。国産ロケット 「H2A」「H2B」の開発・打ち上げや、小惑星探査機「はやぶさ」など、国民のJAXAへの期待はその平和目的の活動にあります。日本の宇宙開発を平和 目的に限定して行うべきことを強く求め、今回の改悪に反対します。

2012年2月9日
九条科学者の会
事務局長 本田浩邦


2011.10.23 2011年交流集会アピール 

憲法九条の空洞化を食い止め、アジアの安全保障のために科学者・研究者の力の結集を!

2005年、憲法九条の改正をねらう国民投票法への動きに対して、全国に広がる改憲を許さないという学者・研究者の声を集めて本会は結成されました。国民投票法は昨年5月にその施行期日を迎えましたが、現在まで改憲発議の具体化には至っていません。このことは九条を守る国民世論とその運動の成果であるといえます。しかし今、憲法九条は民主党野田政権のもとで新たな攻撃に直面しています。
 
現在アメリカ政府は、今後数十年間、北東アジアでの強固な軍事的プレゼンスを維持するために、日本の自衛隊の海外活動能力の向上を支援し、ヴェトナム、インドネシアなどをも巻き込んだ軍事協力を目指すとしています。現在進行中の米軍再編は、グアム、ハワイを拠点に米軍の効率的な展開を可能にするためのものであり、普天間基地の移設や、中国・北朝鮮に対する自衛隊の「情報・監視・偵察(ISR)」強化に関する対日要求もその重要な一環です。

この間民主党政権は、尖閣諸島問題での中国の対応、北朝鮮核開発問題、さらにはロシアとの領土問題などをほのめかしつつ、在日米軍による「抑止力」の必要性を強調し、普天間問題に関する日米合意の忠実な履行、PKO参加五原則や武器輸出三原則の見直しへの着手など、アメリカいいなりの姿勢を強めてきました。さらに、昨年12月に閣議決定された「防衛計画の大綱」では、領土や主権、経済権益等をめぐる、武力紛争には至らないいわゆる「グレーゾーンの紛争」に対応する防衛力の構築を目標に掲げました。これまで、「シーレーン防衛」や「周辺事態法」などで自衛隊の活動範囲は地理的に広げられてきましたが、現在の動きは、本来外交の役割である領土や経済権益をめぐる紛争への対処をも「防衛」の範囲に組み込もうとする質的にちがった危険な狙いを持ちます。

野田首相は就任以来、普天間移設を「日米合意を踏まえて進める」とくりかえし、所信表明演説で「移設」か「固定化」かの二者択一を突きつけ、オバマ米大統領との会談で普天間基地の移設を約束しました。米中はもとより、アジア域内における経済的相互依存がますます強まるなかで、こうした米日の軍事優先の姿勢が、アジア全域の不安定性を高め、各国の相互不信と軍事的対応への傾斜を誘発することは明らかです。このような動きが強まれば、日本は、アメリカとともに煽った国際的な緊張関係のもとで起こる紛争に自衛隊が恒常的に関与するという悪循環におちいり、さらに、日米で共同開発した武器を第三国に売りさばくことによって将来のより大きな紛争を助長する国になりかねません。これらの意味で、九条は質的にかつてない空洞化の危機に瀕しているといえます。

アジアにおける真の平和と繁栄のためには、国家間の諸問題に軍事的に対処するのではなく、集団安全保障の共同の枠組みづくり、領土問題解決のための歴史研究、学術・文化・観光・経済面での交流、漁業者の安全な操業の保障、海底資源の共同開発などを着実に推し進めることこそが必要であり、日本の科学者・研究者の果すべき役割は、これらの課題の解明・解決にあると私たちは考えます。

すでにアジア地域の平和的将来を展望しようとする市民、研究者、ジャーナリスト、自治体の取り組みが始まっています。その近年の例として、安全保障の問題に関する憲法学者による「軍事力に代わる総合的平和保障政策の共同研究」や「平和的生存権国連宣言をめざすキャンペーン」、2004年に始まった日中韓3国の歴史学者による共通の歴史書の作成などがあげられます。

憲法前文には、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」、「われらは、いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」とあります。いま私たちは、武力ではなく、協力による平和を、狭い「国益」への固執ではなく、相互依存と利益の共有を訴え、科学者としての立場からこの前文の精神の実現という課題に立ち向かうことを宣言します。

2011年10月23日
九条科学者の会2011年交流集会
参加者一同


2011.9.9 事務局長談話 

憲法違反の前原発言に強く抗議し、その撤回を求める (事務局長談話)

民主党の前原誠司政調会長(元外相)は、9 月8 日にワシントンで行った講演で、国連平和維持活動(PKO)で自衛隊とともに活動する外国軍隊が攻撃を受けた時は自衛隊が反撃できるようにするため、(紛争当事者からの)中立的立場の厳守等を定めた「PKO参加5原則」を見直すことや、“米国その他の国々との安全保障協力の深化にもつながる”として、原則全ての武器・武器技術の輸出を禁ずる「武器輸出3原則」も見直すことなどを求める発言を行った。このような発言は、「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」ことを定めた日本国憲法に明白に違反するものである。日本国憲法第9 条を擁護し、その世界的拡大を願う私たちは、政権与党である民主党の要職にある前原氏のこの発言に強く抗議し、その撤回を求める。

2011年9月9日
「九条の会」のアピールを広げる科学者・研究者の会(九条科学者の会)
事務局長 本田浩邦



2010.10.22 事務局長談話 

「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」の提言に断固反対する
(事務局長談話)


鳩山政権時に首相の私的諮問機関として設置された「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」が、去る8月27日、「新たな時代の安全保障と防衛力の将来構想」と題する報告書を菅首相に提出した。

この報告書は、これまでの日本の安全保障政策が平和憲法の下で専守防衛と集団的自衛権の不行使を特徴とする「抑制的防衛政策」となっていたこと、また日米同盟における日本の役割も日本の防衛に限定されていたことを反省し、これらはもはや時代遅れであり、今後はこれまで以上に主体的に世界の平和のために取り組む「平和創造国家」を目指さなければならないとしている。
  その具体的な提言は以下の通りである。
  * 米国の核抑止力を効果的なものにするための非核三原則の見直し
  * 防衛生産・技術基盤強化のための武器輸出三原則の見直し
  * 在日米軍の安定的駐留と駐留経費の負担の重視
  * 量・規模だけでなくその運用能力に注目した防衛力の装備
  * PKO参加五原則の見直し(武器使用基準等)
  * 自衛隊の任務として他国の部隊の後方支援を認めるための従来の憲法解釈の変更
  * 国際平和協力活動に関する基本法的な恒久法の制定

以上から明らかなように、この報告書の言う「平和創造国家」とは、強力な軍需産業を内に抱え、アメリカのグローバルな軍事行動に積極的に加担して自衛隊を世界中に派遣する国家であり、この報告書はそのような国家の形成を目指してこれまで平和憲法が課してきたあらゆる制約を取り払うように提言しているのである。

「平成22年版防衛白書」によれば、この報告書は今後の「防衛計画の大綱」策定の検討材料として使われるという。国の安全保障体制の見直しに再してこの報告書の提言が肯定的に受け入れられるなら、それは文字通り憲法をないがしろにした国家づくり、憲法破壊行為であり、決して許されるものではない。平和憲法を守り、憲法が文字通り活かされる社会を目指す立場から断固反対するものである。

2010年10月22日
「九条の会」のアピールを広げる科学者・研究者の会(九条科学者の会) 事務局長
平野 健


2010.8.20 事務局長談話 

衆参両院の比例定数削減計画に反対する  (事務局長談話)

菅直人民主党政権は、国会議員の比例代表定数のうち衆院80議席、参院40議席を削減する計画を8月中に党内で取りまとめ、12月までに与野党合意を図ることを明確にした。

このような選挙制度改革は、まず第1に議会制民主主義を破壊するものとして容認することはできない。現在の選挙制度の下でもすでに民意は大きく歪められているが、「死票」がない比例代表定数を削減することにより、各政党の得票率と議席占有率との乖離はさらに大きくなる。例えば、2009年の衆議院総選挙で民主党は小選挙区47.4%、比例代表42.4%の得票率で64.2%の議席を獲得し、共産党・社民党は2党で小選挙区6.2%、比例代表11.3%の得票率で3.3%の議席しか獲得できなかった。ここでもし比例代表80議席が削減されれば、同じ得票率でも民主党の議席占有率は68.5%に増え、逆に共産党・社民党2党の議席占有率はさらに1.8%に減る。こうして少数政党は事実上排除され、民主党と自民党の二大政党に収斂させられる。少数政党の意見も含め国民の多様な意見を国会に反映させ、国会審議を尽くすことが議会制民主主義の本分であり、これを破壊することは断じて許されない。

第2に、なぜこのような改革を行おうとしているのかという、その狙いの点からも容認することはできない。かねてから財界は、自民党と民主党とが構造改革と改憲・海外派兵の推進を競い合う二大政党制を期待しており、事実、民主党は1998年の結党以来、自らを自民党よりも急進的な構造改革推進派として打ち出してきた。その後、民主党は2007年と2009年の二度の選挙で「国民の生活が第一」というスローガンを掲げて自民党に勝利し、政権交代を実現したが、その変化の背後には構造改革と改憲に反対する国民的運動と世論の圧力があった。今年5月末に普天間基地移設問題で沖縄県民・日本国民の意思に沿えなかった鳩山首相は辞任し、代わって菅内閣が発足したが、7月の参議院選挙で消費税増税を掲げるやいなや大敗した。こうした経過は、国政選挙を通じて構造改革と改憲・海外派兵の推進か阻止かをめぐるせめぎあいがなされていることを示しており、ひるがえって今回の定数削減計画が、国会を民意から切り離し、もって国民が粘り強く反対してきた構造改革と改憲・海外派兵を再び強硬に推進する狙いを持って打ち出されていることを示している。

このことは極めて重大な問題である。もし菅政権の比例定数削減計画が実現すれば、今後、国民は重要な意思決定の場面で自らの意思を国政に反映させる術を大きく制約され、強権政治がまかり通ることになってしまう。議会制民主主義を守り、また国民の願いである平和に安心して暮らす権利を守る立場から、この定数削減計画に強く反対するものである。

2010年8月20日
「九条の会」のアピールを広げる科学者・研究者の会(九条科学者の会) 事務局長
平野 健



2010.6.27 事務局長談話 

「国民投票法」の施行に反対し、あらためてそ廃止を強く求める (事務局長談話)

2007年5月14日に当時の自公政権により強行成立されられた「日本国憲法の改正手続きに関する法律」(国民投票法)は、公布から3年を経過し、先月5月18日に施行された。この法律について、私たちは2007年3月11日に開催した「発足2周年記念の集い」において、「改憲しやすいように『ハードル』を低くし、運動への規制をかけているのが特徴で、このような法律制定の動きは、(中略)米国とともに『戦争をする国』を作るため、九条改悪をはじめとする憲法改悪を急ぐが故に推進されている」と指摘した。成立から3日後の5月17日には、不公正・非民主的な「国民投票法」の強行成立に強く抗議し、憲法改悪反対の国民的運動の推進を呼びかける事務局長談話を発表した。

その後、2007年7月の参議院選挙、2009年8月の衆議院選挙において、「自主憲法の早期実現」を掲げる自民党は惨敗した。改憲のための論点整理を行うべきとされていた憲法審査会も、全く開催されずに現在に至っている。こうした状況に立ち至っているのは、何よりも明文改憲路線が国民多数の意思からかけ離れているからにほかならない。私たちは、憲法改悪を可能とする「国民投票法」の施行に反対し、あらためて同法の廃止を強く求めるものである。

来る7月11日の参議院選挙に向け、自民党が6月17日発表した「マニフェスト」では、冒頭に「自主憲法の制定」を掲げ、「憲法審査会の始動」と、九条第2項「改正」による「自衛軍の保持」を含む「憲法改正原案」の国会提出を「公約」している。これは、同党が、依然として明文改憲路線に固執していることの明確な表れである。また民主党の「マニフェスト」では、「日米同盟の深化」「PKO活動などでの自衛隊および文民の国際貢献活動のあり方について検討」「自衛隊などの海賊対処活動を継続」「防衛生産技術基盤の維持・活性化を図る」など、事実上の「解釈改憲」につながる政策を打ち出している。さらに民主党の枝野幸男幹事長は参院選後に民主党憲法調査会を復活させる方針を表明した。こうした動きは引き続く改憲策動として見過ごすことはできない。

私たちは、日本国憲法の「明文改憲」 はもとより、「解釈改憲」にも強く反対し、文字通り平和で民主的な日本と世界を作るために、いっそう貢献する決意をここに表明する。

2010年6月27日
「九条の会」のアピールを広げる科学者・研究者の会(九条科学者の会) 事務局長
平野 健




2008.1.25 事務局長談話 

「新テロ特措法」(給油支援法)の「再議決」による成立に強く抗議し、自衛隊を恒久的に海外に派遣する「恒久法」(一般法)制定に強く反対する  (事務局長談話)

自民・公明両党などは、1月11日に、参議院で否決された「新テロ対策特別措置法」(給油支援法)を衆議院での「3分の2以上」の多数で再議決し、成立させた。私たちは、この暴挙に対し、強く抗議する。

この法律は、私たちが昨年11月6日に出した談話の通り、11月1日に期限切れで廃止になった「テロ特措法」に基づく自衛隊の米軍などへの補給活動を引き継ぎ、再開させようとするものである。すなわち、「テロ対策」の「給油」の名のもとに、米軍等が行う戦争への自衛隊参加を容認しており、武力の行使と戦力の不保持を定めた日本国憲法9条のもとで断じて許されないものである。

このような違憲の法律制定のため、与党は憲法59条の規定を使い、衆議院の多数を頼みとした「再議決」をした。確かに、59条は「衆議院の優越」を規定しているが、その発動は、国民多数の支持(民意)を前提とすべきものである。今回の場合、4点から、民意は参議院の決定の方にあると考えるべきである。(1)「直近の民意」は参議院選挙の結果であること、(2)各政党の得票率と議席占有率の乖離度は、小選挙区制導入のため、衆議院の方が大きいこと、(3)2005年秋の衆議院選挙は、郵政民営化が争点とされ、自衛隊の米軍支援活動は争点とされていないこと、(4)法の成立以前の世論調査では、殆どが「給油再開反対が多数」であったこと。

今回のような「59条の発動」について、その発動は憲法上の権利であり、当然、との見解を出している人たちがいるが、憲法前文には、「そもそも国政は、国民の厳粛なる信託による」と記載されており、そうした国民の「民意」は、前記のように、「給油再開反対」なのである。

私たちはまた、1月15日の衆議院において、民主党が昨年12月21日に提出した「国際的なテロリズムの防止及び根絶のためのアフガニスタン復興支援等に関する特別措置法案」(以下「民主党案」)を、与党まで賛成して「継続審議」としたことも、とうてい容認できない。 そもそも、与党は参議院では民主党案に反対していたのであるが、このように、「継続審議」に賛成するということは、民主党案に盛られた自衛隊の海外派兵を恒久化する内容を、与党も歓迎しているということを示している。現に、福田首相は、1月17日の施政方針演説において、「迅速かつ効果的に国際平和協力活動を実施していくため、いわゆる『一般法』の検討を進める」と述べている。「一般法」とは、まさに「自衛隊の海外派兵の恒久化法」にほかならないのである。

「九条の会」アピールへの科学者・研究者の賛同を集め、その結果を広範な国民に知らせることを目的に活動している私たちの会は、自衛隊の海外派兵を決して容認せず、今後とも、日本と世界の平和な未来のために、いっそうの努力を重ねる決意をここに表明する。

2008年1月25日
「九条の会」のアピールを広げる科学者・研究者の会(九条科学者の会) 事務局長
平野 健



2007.11.06 事務局長談話 

補給支援活動特措法案(新テロ対策法案)および
自衛隊海外派遣の「恒久化」法案策定に強く反対する

さる10月17日、政府は「テロ対策海上阻止活動に対する補給支援活動の実施に関する特別措置法案」(略称・補給支援活動特措法案、以下「新法案」)を国会に提出し、現在、衆議院で審議されている。この「新法案」は、11月1日に期限切れで廃止になった「テロ特措法」に基づく自衛隊の米軍などへの補給活動を引き継ぎ、再開させようとするものであるが、「テロ特措法」も「新法案」も、武力の行使と戦力の不保持を定めた憲法9条のもとで断じて許されないものである。

アメリカがインド洋などで展開している「不朽の自由作戦」(OEF)は、アメリカの言い分では、「2001年9月11日の事件の首謀者とそれを支援するアフガニスタンに対する自衛権の発動として行っている」もので、これに対する支援は、仮に補給活動であろうと集団的自衛権の行使にほかならず、それは日本政府すらも憲法9条の下では行使できないとしてきたものである。しかも、自衛艦による給油活動は、イラクを攻撃する米軍艦船に対しても行われたとの疑いは払拭されず、自衛隊の活動は、アメリカの国際法違反の軍事活動を事実上下支えするものとなってきた。このような活動は決して再開すべきでない。

一方、民主党の小沢一郎党首は、インド洋での補給活動の継続に反対しているものの、アフガニスタン本土で展開されている「国際治安支援部隊」(ISAF)の活動は、国連安保理決議に基づく活動であることから、それへの参加は憲法違反ではなく、参加を検討するとしているが、このISAFの活動は、米軍の「不朽の自由作戦」を補完しつつ、またそれ自体も武力の行使を含むものであり、現に戦闘行動を実施している。このような活動への参加は、戦力の不保持を通じて武力行使放棄の趣旨を徹底させている憲法9条のもとで許されるものではない。

11月2日の「福田・小沢密室会談」では、自衛隊の海外派遣を、個々の法律制定をすることなく、常時可能にする「派兵恒久法」(以下「恒久法」)とも言うべき法律の制定まで意見交換がされたと伝えられる。このような動きは、決して今回突然出されてきたものではない。自民党は2006年8月に、武器使用の範囲を拡大し、「テロ掃討作戦」も可能にする恒久法原案を「防衛政策検討小委員会」(石破茂委員長)が作成している。また、小沢一郎氏が党首だった旧自由党は、2003年4月に、国連のお墨付きがあれば武力行使も可能とする「安全保障基本法案」を国会に提出している。このような別個の流れが接点を見出して「恒久法」を作ろうという今回の動きは、日本国憲法の平和主義を蹂躙する危険な動きと言わざるを得ない。

福田首相らは、口を開けば「国際貢献が必要」と言うが、国際貢献は軍事的ではなく、平和的に行うことこそ、日本国憲法が強く求めていることである。「テロ対策」も、破壊と殺戮の戦争はかえってテロリストを増やす結果を招くだけであって、テロの土壌となる飢餓や貧困をなくし、人々の生活を安定させることこそが肝要である。私たちは、憲法9条を守る立場から、新テロ対策法案のみならず、自衛隊海外派遣の「恒久化」法案策定に強く反対し、ここに声明する。

2007年11月6日
「九条の会」のアピールを広げる科学者・研究者の会(九条科学者の会)
事務局長 平野 健



2007.5.17 事務局長談話 

不公正・非民主的な「国民投票(改憲手続き)」法の強行成立に強く抗議し、
憲法改悪反対の国民的運動を推進しよう

自民・公明両党は、5月14日に「日本国憲法の改正手続きに関する法律」(国民投票法、以下「法律」)の成立を強行した。参議院では中央公聴会も開催しないまま、国民の間から多くの批判や疑問が出される中での成立強行に対し、私たちは強く抗議する。

この法律について、私たちは、3月11日に開催した「発足2周年記念の集い」において、「改憲しやすいように『ハードル』を低くし、運動への規制をかけているのが特徴で、このような法律制定の動きは、これまで多くの個人・団体が指摘してきたように、米国とともに『戦争する国』を作るため、九条改悪をはじめとする憲法改悪を急ぐが故に推進されている」ことを「集会アピール」にて指摘した。この指摘は、その後2ヶ月足らずの不十分な国会審議においても、また国会外での様々な個人・団体の論説等によっても、いっそう明らかなものとなっている。

法律の制定により、国会での改憲発議は2010年5月から可能とされた。今後、憲法改悪を求める勢力のいっそうのキャンペーン推進が予想される。しかし、どのような仕掛けが作られても、国民の過半数が反対すれば、憲法改悪は成立しない。この4月から5月にかけてのマスコミの世論調査報道では、憲法「改正」賛成が減少し、九条支持が増加しているのが特徴である。私たちは、このような動向に注目し、期待する。

私たちは、2005年3月から、「九条の会」アピールへの科学者・研究者の賛同を集め、アピールの国民への普及をはかることを目的に種々の活動を行ってきた。今後、そうした活動をいっそう幅広く豊かなものとし、憲法改悪を許さず、平和で民主的な日本と世界を作るために貢献する決意であることをここに表明する。

2007年5月17日
「九条の会」のアピールを広げる科学者・研究者の会
事務局長 平野 健



2007.4.19 事務局長談話 

改憲手続き法案の衆議院強行採決に強く抗議し、
参議院での徹底審議と廃案を求める


自民・公明の与党は、4月12日に衆議院憲法調査特別委員会で、翌13日に衆議院本会議で、野党の反対を押し切り、改憲手続き(国民投票)法案を強行採決した。3月11日に「発 足2周年記念の集い」を開いた私たちは、100名を超える参加者の賛同により集会アピール「私たちは、憲法改悪のための非民主的な『国民投票法案』に強く反対します」を採択し、これを特別委員会の全委員に送付するなどの活動をしてきたが、私たちの平和と民主主義への願いは踏みにじられた。私たちは、このことに強く抗議する。

私たちが集会アピールで指摘したように、与党の法案は、国の基本法である日本国憲法を変えるための手続きを定めるという重要な法案であるにもかかわらず、最低投票率の規定がなく、国民多数の意思によって改憲をするという内容になっていない。加えて、公務員・教育者や組合・市民団体等の運動を規制する一方で、有料CMは無規制にするなど、改憲派に有利な内容が盛り込まれている。すなわち、同法案は、改憲のハードルを低くし、かつ、運動に規制をかけることによって、改憲を容易に行えるように誘導する内容になっていることは明らかである。このような、民主主義の根幹にかかわる重大な問題点は、徹底的に審議すべきであったにもかかわらず、衆議院で短時間の極めて不十分な審議で採決したのは遺憾の極みと言わざるを得ない。

現在の日本は、震災や事件・事故の続発、医療・福祉・公害・薬害問題等々、国民の安全・安心にかかわる緊急課題が山積しており、国会はそうした問題にこそ優先して取り組むことが求められている。各種世論調査でも、本法案を急いで成立させるべきと答える国民は少数であることが示されている。

私たちは、「良識の府」と言われる参議院においては、前述のような本法案の重大な問題点を徹底的に審議のうえ、廃案とすることを強く求める。

2007年4月18日
「九条の会」のアピールを広げる科学者・研究者の会
事務局長 平野 健



2007.3.11 「九条の会」のアピールを広げる科学者・研究者の会・発足2周年記念の集い・アピール  

私たちは、憲法改悪のための非民主的な「国民投票法案」に強く反対します

自由民主党は、2005年10月に、自衛軍を保持し海外での戦争参加を可能にするために、現憲法の9条2項を変えるなどの「新憲法草案」を決定した。小泉前首相の後継者となった安倍首相は、任期中の5年間の改憲を目指しており、自民・公明の与党は、2006年5月、「日本国憲法の改正手続きに関する法律案」(以下「国民投票法案」)を国会に提出した。その後、与党は民主党案との「すり合わせ」を行い、一部を修正のうえ、2007年5月3日までにこの修正案を国会で成立させようとしている。

「国民投票法案」は、これまでの報道によれば、@投票権者を「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げる、A政党等による無料の放送・意見広告の扱いを賛否平等にする、B公務員・教育者の運動制限違反への罰則は設けない、等の諸点が修正されるという。しかし、依然として、以下のように、改憲をしやすいように「ハードル」を低くし、運動への規制をかけているのが特徴である。

(1)最低投票総数の規定がなく、かつ、実質的に最も少ない賛成で改憲が成立するように、白票・棄権票を除外した「賛成・反対票」を「有効票」としている。
(2)上記のように、無料の放送・意見広告については平等にするとしても、マスコミによる有料広告については無規制である。また、テレビ・ラジオによる広告放送の禁止は、投票日の14日前からとなっている。これらの規定は、財力のある改憲派に有利に働くのは明らかである。
(3)公務員・教育者の運動制限違反への罰則は設けないとの修正についても、運動制限を規定することに変わりはなく、運動を行った公務員・教育者に対する行政処分が行われる可能性も否定できない。
(4)「組織的多人数人買収及び利害誘導罪」を新設し、政党、組合、市民団体等の運動を規制しようとしている。

国の基本法であり、国民全体にかかわる憲法の改正を行うためには、国民の多くが改正の必要性を認識していること、つまり、改憲に向け国民的要求が存在していることが大前提である。然しながら、各種の世論調査では、そのような国民的な要求は明示されていない。にもかかわらず、安倍首相は、7月の参議院選挙の「争点」にするとまで公言している。そして、与党は、上記のような、民主主義の根幹にかかわる重大な問題点を含む法案を、短期間の審議で成立させようとしている。

このように見てくると、今回の国民投票法制定の動きは、これまで多くの個人・団体が指摘してきたように、米国等とともに「戦争する国」を作るため、九条改悪をはじめとする憲法改悪を急ぐが故に推進されていると断ぜざるを得ない。「九条の会」アピール冒頭の記載のように、まさに、「日本国憲法は、いま、大きな試練にさらされている」。

「九条の会」アピールへの科学者・研究者の賛同を集め、アピールの国民への普及をはかることを目的に活動している私たちは、以上の理由から、今回の「国民投票法」制定の動きに強く反対し、ここに声明する。

2007年3月11日 「九条の会」のアピールを広げる科学者・研究者の会
発足2周年記念の集い 参加者一同



2007.01.05 事務局長談話 

教育基本法改悪に強く抗議し、改憲阻止国民運動の飛躍的発展をはかろう

自民・公明両党は、12月15日の参議院本会議で、徹底審議を求める国民世論を押し切って、教育基本法「改正」政府案を強行可決し、「改正教育基本法」(以下「改正法」)を成立させた。私たちは、このような暴挙に強く抗議する。

 「改正法」は、異例の速さで12月22日に施行されたが、現在でもなお、教育関係者を中心に、抗議や批判の声明等が出され続けている。それらがほぼ共通して指摘しているのは、今回の「改正」は紛れもなく、日本国憲法の条項(第19・23・26条等)にそぐわない「改悪」であること、世論誘導のために「やらせタウンミーティング」などを組織し、その責任についてもわずかな額を『返上』することでお茶を濁すなどして、強引に成立をはかった、ということである。

私たちは、5月9日の時点で、「改正」案は、「教育の国家統制を推進し、『戦争に協力する国民』の育成をめざすのが重要な狙い」と指摘した。このような指摘に対しては、小泉前首相が5月24日の国会において「(改正案は)他国との協調姿勢をはっきりと押し出しているので、・・・誤解というよりも曲解」と答弁している。しかし、この答弁の欺瞞性は、12月5日の国会で明白になった。すなわち、伊吹文科相と塩崎官房長官は、「改正案は自民党が昨秋まとめた新憲法草案とも整合性をチェックしている」旨答弁した。現憲法第9条2項を「改正」して、「国際協調」のため海外での活動ができる自衛軍を持つ――このような新憲法草案と『整合』する「改正法」とは、まさに私たちの指摘通りの狙いを持つものであることは明らかである。同じ12月15日、自民・公明両党だけでなく民主党と国民新党も賛成して成立した防衛庁の「省」昇格法の中に、自衛隊の海外活動を本来任務化する内容が盛り込まれているのも、いわば新憲法草案の「先取り」と言わねばならない。

2004年6月10日に井上ひさし氏ら9人の識者によって発せられた「九条の会」アピールは、「日本と世界の平和な未来のために、日本国憲法を守るという一点で手をつなぎ、『改憲』のくわだてを阻むため、一人ひとりができる、あらゆる努力を、いますぐ始めること」を訴えている。私たちはこのアピールに応えるべく、2005年3月に「九条の会のアピールを広げる科学者・研究者の会」を作り、今日まで種々の活動をしてきた。

今後の活動としては、「改正法」の成立に対しては、その具体化をはばむための活動が必要である。また、前国会で継続審議となった「国民投票法案」を含む改憲手続き法案の成立を阻止することが求められている。

安倍首相は、「任期中の改憲」を繰り返し言明しているが、国民の多くは、政府にそのようなことを期待しているのではない。日本国憲法に盛られた基本的人権の尊重、議会制民主主義の擁護・発展、三権分立といった基本原則を守り発展させることを通じて、平和と民主主義を守り、国民生活を守り、充実させていくことこそが求められているのである。

私たちは、今後とも国民の皆様と固く手をつなぎ、改憲阻止の国民運動を飛躍的に発展させる決意であることをここに表明する。

2007年1月5日
「九条の会」のアピールを広げる科学者・研究者の会
事務局長  片平洌彦
連絡先 FAX 03−3811−8320



2006.12.03 参議院教基法特別委員会 委員宛緊急要請書 

教育をめぐる数多くの問題について、審議を尽くすことを求めます。
審議打ち切り、採決には強く強く反対します!(要請)


 タウンミーティングの『やらせ』問題、高校必修科目未履修問題、いじめによる自殺問題、教育における機会均等の破壊・格差拡大問題等々にみるように、教育基本法『改正』案の審議は全く尽くされていません。審議をするほどに、新たな問題が噴出しています。このような段階において、委員会で採決をはかることは到底容認できません。
 私たちは、
別紙のように5月15日付けで「『戦争に協力する国民』の育成を目指す教育基本法『改正』案に抗議し、その廃案を強く求める」事務局長談話を出していますが、その後現在までの動きは、この私たちの指摘をいっそう裏付けるものとなっています。私たちは、このような基本的立場から、教育基本法『改正』案の審議を尽くしたうえで廃案とすることを求めています。
 世論は、「徹底審議」を求める声が多数です。日本経済新聞の11月の世論調査でも、「今国会の成立にこだわるべきではない」が55%と過半数にのぼっています。私たちは、審議が尽くされていない現時点での採決に対し、強く強く反対します。

2006年12月3日
「九条の会」のアピールを広げる科学者・研究者の会
事務局長  片平洌彦
連絡先 FAX 03−3811−8320



2006.11.16 河野洋平衆議院議長宛要請書 

教育基本法『改正』案を委員会に差し戻し、審議を尽くすことを強く求める (要請)

衆議院議長 河野洋平様

自民・公明両党は、全野党が欠席するなかで、教育基本法特別委員会において、15日に教育基本法「改正」案の採決を強行しました。

タウンミーティングの『やらせ』問題、高校必修科目未履修問題、いじめによる自殺問題、教育における機会均等の破壊・格差拡大問題等々にみるように、教育基本法『改正』案の審議は全く尽くされていません。このような段階において、全野党の反対を押し切って委員会で採決することは言語道断です。

私たちは、
別紙のように5月9日付けで「『戦争に協力する国民』の育成を目指す教育基本法『改正』案に抗議し、その廃案を強く求める」事務局長談話を出していますが、その後現在までの動きは、この私たちの指摘をいっそう裏付けるものとなっています。私たちは、このような基本的立場から、教育基本法『改正』案は、委員会に差し戻し、審議を尽くすことを強く求めます。

2006年11月16日
「九条の会」のアピールを広げる科学者・研究者の会
事務局長  片平洌彦



事務局長談話 2006.11.15

自衛隊の海外派兵を「本来任務」化し、海外での戦争参加に道をひらく「防衛庁『省』昇格法案」に強く反対する

政府・与党は、「防衛庁設置法等の一部を改正する法律案」(以下「法案」)を国会に提出し、早期の成立をはかろうとしている。11月9日には、民主・社民両党欠席のまま、衆議院安全保障委員会で審議開始が強行された。この法案は、「防衛庁設置法」や「自衛隊法」など関連73法に及ぶもので、マスコミでは「防衛庁『省』昇格法案」などと呼ばれていることにより、防衛庁が「防衛省」に格上げすることが主目的であるかのような印象を与えている。

しかしながら、この法案の主たる目的は、従来は「付随的任務」であった自衛隊の海外派兵を、「本来任務」に格上げし、自衛隊の海外派兵を「恒久的な」ものにしていくことである。そして、武器使用の制約を緩和することにより、自衛隊の海外での武力行使、ひいては戦争参加に道をひらくことである。そのことは、法案提案の「理由」に「我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態に対応して行う我が国の平和及び安全の確保に資する活動等を自衛隊の任務として位置付ける」と記載されていることや、法案において、「在外邦人等の輸送」や「後方地域支援等」などの際に、武器使用が許容されていることが規定されていることを見れば明らかである。

周知のように、日本国憲法第九条は、国際紛争を解決する手段としての武力による威嚇または武力の行使は「永久にこれを放棄する」とし、「国の交戦権はこれを認めない」と明記している。1954年の参議院本会議では、自衛隊の「海外出動を為さざることに関する決議」が採択された。ところが、1990年代以降、「解釈改憲」によって、「国際平和協力活動」の名のもとに自衛隊が公然と海外に派遣される事態となった。2001年には「テロ特措法」、2003年には「イラク特措法」や「有事関連法」の成立が強行された。2004年にはイラクに自衛隊が派遣され、今も航空自衛隊が「支援活動」という名の戦争協力を行っている。そして、2005年10月公表の自民党新憲法草案では、「自衛軍」を保持し、「国際平和協力活動」を行うことができると明記されるに至った。今回の法案は、まさにこうした「解釈改憲」の一環であり、かつ「明文改憲」の先取りと言わねばならない。

「九条の会」のアピールに賛同し、科学者・研究者の間にその普及をはかることを目的に活動している私たちは、自衛隊の海外派兵を「本来任務」化し、海外での戦争参加に道をひらく「防衛庁『省』昇格法案」に強く反対し、その廃案を求める。

2006年11月15日
「九条の会」のアピールを広げる科学者・研究者の会
事務局長  片平洌彦



事務局長談話 2006.10.12

北朝鮮の核開発中止と6カ国協議復帰、そして核兵器の全面禁止の国際協定締結を強く求める

10月9日、朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)は、核実験を「安全に成功裏に」行い、この実験が「朝鮮半島と周辺地域の平和と安定を守るのに貢献するだろう」との声明を発表した。私たちは、以下の3点から、この核実験に強く抗議する。第1に核兵器は人類の生存を脅かす大量破壊兵器であり、その廃絶こそ世界の平和と安全にとって必要かつ緊急の課題であり、核実験はそれに逆行する行為であること。第2に、2002年9月の日朝平壌宣言で、北朝鮮は核問題の解決について「関連するすべての国際的合意を遵守する」と確認していること。第3に、2005年9月の「6カ国協議」共同声明で、北朝鮮は「すべての核兵器及び既存の核計画を放棄すること」を確認していること。以上より、私たちは、北朝鮮が今回の核実験実施の誤りを認め、直ちに核開発を中止し、6カ国協議の場に復帰することを強く求める。

私たちはまた、この機会に、日本の政府が、国連の場で、核兵器全面禁止の国際協定締結のために先頭に立って努力することを強く求める。自らは核兵器を大量に保持・配備し、「未臨界(臨界前)核実験」という形で実験を繰り返しながら、他国に対しては「核実験をするな」という国々の「論理」は説得力に欠けると言わざるを得ない。核兵器全面禁止は、唯一の被爆国であり、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼してわれらの安全と生存を保持しようと決意」した、戦争放棄の条項がある憲法を持つ日本の政府こそが、最も声を大にして主張すべきことだからである。そして、その日本の主権者である私たちも、その実現のため、あらゆる努力をする決意であることを、ここに表明する。

2006年10月12日
「九条の会」のアピールを広げる科学者・研究者の会
事務局長  片平洌彦



2006.9.25 東京都知事、東京都教育長宛要請書 

東京地裁の「日の丸・君が代強制違憲判決」に服し、 控訴断念と「10・23通達」撤回を強く求めます(要請)

東京都知事 石原慎太郎 様
東京都教育長 中村正彦 様

東京地裁の「日の丸・君が代強制違憲判決」に服し、 控訴断念と「10・23通達」撤回を強く求めます(要請)

9月21日、東京地裁は、都立学校における「日の丸・君が代」の強制は、教育基本法第10条(教育行政)と日本国憲法第19条(思想・良心の自由)に違反しているという判決を下しました。 判決は、日の丸・君が代が「皇国思想や軍国主義思想の精神的支柱とされた」過去の歴史的事実を認定し、これに対し起立・斉唱したくない教職員にまで強制し、従わない者を懲戒処分にすることは、少数者の思想・良心の自由を侵害し、行き過ぎとしています。これは、前記の2つの法律の精神に基づき、市民的感覚にも合致する妥当な判断であると考えられます。

そもそも、「日の丸・君が代」を強制しない、ということは、日本政府自身が国会で答弁していることです。「日の丸・君が代」は、1999年の国会で「国旗・国歌」であると強行的に定められましたが、その際、首相・文相など政府関係者は、「強制しない」ということを、繰り返し述べています。例えば、当時の小渕恵三首相は、99年7月28日の参議院本会議で、以下のように答弁しています。「政府としては、法制化に伴い、国民に対し国旗の掲揚、国歌の斉唱等に関し義務づけることは考えておらず、法制化により思想・良心の自由との関係で問題が生じることにはならない」。今回の判決で認定された「強制」は、まさにこの答弁に反していることは明らかです。

公務員である貴職らは、この判決を、日本国憲法と教育基本法に基づいた司法の判断と厳粛に受け止めて、控訴を断念してこれに服し、違法と指摘された2003年10月23日付けの「10・23通達」を撤回することを強く求めます。

2006年9月25日
「九条の会」のアピールを広げる科学者・研究者の会
事務局長  片平洌彦



事務局長談話 2006.9.11

安倍内閣官房長官の「集団的自衛権」容認発言の撤回を強く求める

新聞報道によれば、安倍内閣官房長官は、9月1日に自民党総裁選挙への立候補を表明した際の記者会見において、「日米同盟の機能を向上させるため、個別具体的な例について、集団的自衛権の行使が禁止されている典型的な例にあたるかを検討していくべき」と述べた。そして、5日の記者会見では、このことについて、「現行の(憲法)解釈の中で、あるいは新しい解釈があるのかどうかも含めて検討すべきではないか」と語り、「集団的自衛権」についてのこれまでの政府見解の変更を検討する考えを示した。

「集団的自衛権」とは、同盟関係にある国への攻撃を自国への攻撃とみなして武力で応戦する権利とされていて、このような権利については、日本政府の従来の見解ですら、「憲法上行使は許されない」としてきた。今回の安倍内閣官房長官の発言は、このような従来の政府見解を変更し、「集団的自衛権」を容認しようとするものであり、憲法99条に規定された「公務員の憲法尊重・擁護義務」に背くものと言わねばならない。

安倍氏はまた、9月1日に発表した政権公約「美しい国、日本」において、「『世界とアジアのための日米同盟』を強化させ、日米双方が『ともに汗をかく』体制を確立する」ことをあげている。私たちは、このような「公約」は、日米双方が『ともに汗をかく』どころではなく、『ともに血を流す』危険な道を追求するものと言わざるを得ない。そのことは、直近では、「イラク戦争」の経過と現在(戦争開始後現在までの米兵の死者は2651人と報道されている!)を見れば明らかである。このような公約を掲げ、集団的自衛権行使を容認するということは、まさに軍事同盟条約である日米安保条約を強化し、日本を米国等と共に「戦争する国」にすることにほかならない。

私たちは、この安倍氏の「集団的自衛権」容認発言の撤回を強く求める。

「九条の会」アピールへの科学者・研究者の賛同を募り、その結果を広範な国民に知らせることを目的に活動している私たちの会は、日本国憲法を守るという一点で手をつなぎ、安倍氏の唱導の結果もたらされる危険な未来ではなく、日本と世界の平和な未来のために、いっそうの努力を重ねる決意をここに表明する。

2006年9月11日
「九条の会」のアピールを広げる科学者・研究者の会
事務局長  片平洌彦



事務局長談話 2006.5.9

「戦争に協力する国民」の育成を目指す 教育基本法「改正」案に抗議し、その廃案を強く求める

政府与党は、4月28日に教育基本法(以下「現行法」)の「改正」案(以下「改正」案)を決定し、国会に提出した。そして、今国会での成立をはかるため、5月11日に特別委員会の設置を強行した。私たちは、自民・公明両与党が国民との対話を重ねることなく密室協議で準備してきた「改正」案を、特別委員会を設けてまで一気に成立させようとしていることに厳しく抗議する。

「改正」案は、一般のマスコミでも大きく報じられているように、教育の目標の中に、現行法には記載されていない「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」ことを入れる(第2条)とともに、前文においても、現行法の「真理と平和を希求する人間の育成を期する」を「真理と正義を希求し、公共の精神を尊」ぶ人間の育成を期すると変更している(この「公共の精神」は、第2条の教育の目標にも記載)。そして、このような国民の育成のため、教育行政について、現行法の「教育は不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきもの」(第10条)の後半を削除し、国が「教育振興基本計画」を定めて、教育に直接介入できる(第16・17条)ようにしている。

自民党が昨年11月に決定した「新憲法草案」とを重ねてみると、このような「改正」案の狙いは明らかである。「新憲法草案」では、憲法九条2項を変えて「自衛軍」を持ち、海外での武力行使に道をひらく内容になっており、また、現憲法第12・13条の「公共の福祉」を「公益及び公の秩序」に置き換えている。すなわち、「国際協調」の名のもとに、米国等とともに他国への武力介入にも「協調」可能な国を作ることが目指されており、そうした「戦争に協力する国民」「愛国心を持った、国策に積極的に協力する国民」を育成するよう、教育の国家統制を推進することが、今回の「改正」案の重要な狙いなのである。

昨年の総選挙における公約では、自民党は「郵政民営化」を争点にする中で、抜け目なく「教育基本法の改正」をしのばせていたが、公明党の分厚いマニフェストには、そのような記載はされてなかった。「愛国心」を「国と郷土を愛する」に変えた程度で妥協し、このような重大な法案の提出を認めた政党は、国民への公約違反をしているとのそしりを免れないと言わざるをえない。

「九条の会」のアピールに賛同し、科学者・研究者の間にその普及をはかることを目的に活動している私たちは、日本国憲法の改悪のみならず、「教育の憲法」と言われる教育基本法の改悪にも反対し、「改正」案の廃案を強く求め、ここに声明する。

2006年5月9日
「九条の会」のアピールを広げる科学者・研究者の会
事務局長  片平洌彦



事務局長談話 2006.2.20

憲法改悪のための国民投票法案に強く反対する

自民・公明の両党は、憲法「改正」のための手続きを定める国民投票法案を、民主党と調整の上、今国会に提出し成立させようとしている。 法案の最終案は未定であるが、これまでに伝えられる与党案は、主要点だけでも、 以下のような重大な問題点を含んでいる。
(1) 最低投票総数の規定がなく、かつ、改憲成立を、最も少ない賛成で改憲が成立する「有効投票の過半数」としている。
(2) 国会の発議から投票までの最短期間を、従来案の「60日」から「30日」にまで短縮している。
(3) マスコミの報道・評論を規制している。
(4) 公務員や教育者の国民投票に関する運動を規制している。

国の基本法であり、国民全体にかかわる憲法の改正を行うためには、改正案につい て国民に充分周知し、国民的な議論を行った上で投票することが必要である。  しかるに、上記のような内容を含む法案を提出するということは、国民への周知をはからず、国民的な議論を封じて、急いで成立させようとする意図があることは明ら かである。

そもそも、このような、民主主義の根幹にかかわる重大な問題点を含む法案が出されてくるのは、憲法改正ではなく、憲法改悪を急ぐ力が働いているからに他ならな い。周知のように、昨年10月に「自民党新憲法草案」が出されたが、その内容は、日本国憲法前文や九条2項などを全面的に変え、「自衛軍」を保持して、米軍等と共に海外での武力介入すなわち戦争に参加することを可能にするなどの内容である。今回の国民投票法案は、平和主義に立脚する日本国憲法を、そのような危険な内容に作り変えるための準備法案であり、私たちは、提出自体を認めることはできない。

「九条の会」アピールへの科学者・研究者の賛同を集め、その結果を広範な国民に知らせることを目的に活動している私たちの会は、日本国憲法を守るという一点で手 をつなぎ、日本と世界の平和な未来のために、いっそうの努力を重ねる決意をここに表明する。

2006年2月20日
「九条の会」のアピールを広げる科学者・研究者の会
事務局長 片平洌彦